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日本周産期・新生児医学会
新生児蘇生法普及事業 事務局
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コンセンサス2010に準じたガイドライン改訂について

草川 功

日本周産期・新生児医学会 NCPR改訂準備部会 委員長
聖路加国際病院 小児科

コンセンサス2010に基づく、新しい蘇生法の変更点を新しいアルゴリズム図に沿って簡単に説明します。

出生直後チェックポイント

出生直後のチェックポイントとして、今までは羊水の胎便による混濁の有無が入っていましたが、今回からは削除され、早産児、弱い呼吸・啼泣、筋緊張低下の3つの項目のみとなりました。今までの講習で羊水混濁があった場合にはアルゴリズム上で別の流れになっていましたが、羊水混濁があったからといって必ずしも気管内吸引をすることがよい結果をもたらすとは限らないという報告があることから削除されました。このチェックポイントでは、今までと同様、上記の3項目をすべて認めない場合、あるいは一つでも認める場合の2つにわかれます。

ルーチンケア

出生直後のチェックポイントで3項目をすべて認めなかった場合には、今まで通りルーチンケアに流れますが、ここでの変更点は、児のケアを母親のそばで行うということがはっきりと明記されたことです。しかし、保温、気道開通、皮膚乾燥、更なる評価を行う事は変わっていませんので母親のそばで慎重なケアを行うことが大切になります。カンガルーケアも含めた母子関係への配慮が求められます。

蘇生の初期処置

出生直後のチェックポイントで一つでも問題があった場合には、蘇生の初期処置は羊水混濁があった場合も含めすべて、保温、体位保持と気道開通(胎便除去を含む)、皮膚乾燥と刺激となりました。気道開通の一つとして吸引による胎便除去も含まれるという考え方です。保温の方法、気道開通のための吸引チューブの選択、吸引の順番、皮膚乾燥、皮膚刺激の方法などは今までと変わりありません。胎便による羊水混濁があった場合には、今まで通り、吸引の際に太めの吸引チューブを使用すること、必要ならば気管挿管し吸引するという方法をとることを考慮しても構いませんが、「活気が無い場合」でもルーチンに気管内吸引をする必要は無いことになりました。

蘇生の初期処置後の評価

蘇生の初期処置を必要とした場合、以前と同じように30秒ごとに児の評価を行うことになりますが、臨床的な評価項目は、呼吸と心拍数の二つになり、酸素化の評価は肉眼的な皮膚色の観察では信頼性が乏しいとしてパルスオキシメータの使用が強く推奨されています。

また、心拍数の評価方法は、今までは臍帯拍動触知を測定方法の第一選択としていましたが、この方法では過小評価する恐れがあるということから、今回の改訂では、胸部聴診を第一選択とし、更にはパルスオキシメータでの心拍数の測定の方が正確であるとされました。呼吸状態の評価基準は自発呼吸の「ある/なし」で、心拍数の評価基準は100回/分以上/未満で、以前と変更はありません。以上の様に、蘇生が必要となった児に対しては、パルスオキシメータの右手への装着を考慮することが今回の改訂では強調されています。実際には、機器装着からモニターの値が正確に表示されるまでに時間的なずれが生じますから、モニターを正しく活用するためには、蘇生処置を続けて必要とする可能性のある児に対して、より早い時期でのパルスオキシメータの装着を考慮することが大切となります。

自発呼吸がありかつ心拍数が100回/分以上

アルゴリズム図

初期蘇生の後に、自発呼吸、心拍数が共に十分な場合には、次に、努力呼吸・チアノーゼの確認を行います。両者共に認めなければ経過観察として蘇生後のケアに流れますが、もし、努力呼吸あるいはチアノーゼ(中心性)を認めた場合は次の蘇生処置に進みます。

ここでの今回の改訂での大きな変更点は、皮膚色の肉眼的評価が難しいことから、客観的な評価のためにパルスオキシメータを右手に装着することを推奨していることです。また、次の蘇生処置としては、まず、100%酸素投与ではなく空気を使用して開始する持続的気道陽圧(CPAP)管理が推奨され、この空気によるCPAP管理ができない場合には、従来通りのフリーフロー酸素投与を行うと変更になりました。 このように、今までルーチンに行ってきた100%酸素投与は酸素の過剰投与にならないようにパルスオキシメータの値を見ながら慎重に行うべき処置として第一選択ではなくなりました。これらの処置を行った30秒後の評価によって、すべてが解消されれば蘇生後のケアへ、まだ何らかの症状が残っていれば、今までと同じようにアルゴリズム図の左側へ流れ、人工呼吸の処置へ進みます。

自発呼吸がないあるいは心拍数が100回/分未満

(CPAPあるいは酸素投与を行っても努力呼吸あるいはチアノーゼが改善しなかった場合)

蘇生の初期処置を行っても呼吸あるいは心拍数が十分ではない場合には、今まで通りバック・マスクによる人工呼吸を行います。ただし、正期産児や正期産に近い児では、最初の人工呼吸は今までのように100%酸素を使用するのではなく、空気を使用するべきであると変更されました。

この為、自己膨張式バックを使用していた施設の場合には、酸素供給ラインを自己膨張式バックから外せば今まで通りの対応で可能ですが、流量調節式バックを使用していた施設では、空気でマスク・バック人工呼吸を行うためには圧縮空気の配管あるいはボンベが必要となります。更には酸素濃度の調節が望まれるため酸素ブレンダ―という酸素濃度調節の機器設置も必要となります。

30秒間人工呼吸をした後に、心拍数が60回/分以上100回/分未満である場合

30秒間人工呼吸をした後に、なお心拍数が60回/分以上はあるが100回/分未満である場合には、マスク・バック人工呼吸が適切に行われているか(すなわち気道確保、姿勢、マスクの当て方など)を確認し、必要があれば気管挿管を考慮します。そして、更に30秒間の処置を行い、再評価を行います。

30秒間人工呼吸をした後に、心拍数が60回/分未満である場合

30秒間人工呼吸をした後に、なお心拍数が60回/分未満である場合は、人工呼吸に加え胸骨圧迫を開始します。胸骨圧迫と人工呼吸の割合は今まで通り3:1とし、1サイクル2秒間を目安に行います。 胸骨圧迫は胸郭包み込み両拇指圧迫法(両拇指法)が推奨され、胸骨の下1/3の部位を胸郭前後径の1/3がへこむ深さまで圧迫します。場合によっては二本指圧迫法(二本指法)も考慮して構いません。

今回、心肺停止が心原性であると考えられた場合には、胸骨圧迫と人工呼吸の割合をより高い比率(15:2など)を考慮するという項目が追加されましたが、実際の臨床現場では非常にまれな場合と思われます。

人工呼吸と胸骨圧迫をした後に、心拍数が60回/分未満である場合

人工呼吸と胸骨圧迫をした後に、なお心拍数が60回/分未満である場合は、アドレナリンの投与を考慮します。投与経路は静脈ルートを第一選択とし、従来通り臍カテーテルを使用しても構いません。アドレナリンの静脈内投与量は 0.01mg/kg~0.03mg/kgで、ボスミンRの原液(1000倍希釈アドレナリン)1mlを生理的食塩水などで10mlに希釈し、その希釈液を 0.1ml/kg~0.3ml/kg投与する従来の方法と同じになります。静脈ルートがすぐに確保できない場合は、同じ投与量を骨髄針の使用による経骨髄投与することも追加されました。 また、従来どおり、気管挿管の上、気管内にアドレナリンを投与することも推奨されていますが、今回の改訂で、気管内投与量が 0.05~0.1mg/kg(ボスミンRの原液1mlを生理的食塩水などで10mlに希釈し、その希釈液を0.5ml/kg~1ml/kg投与)と以前より若干多くなっていますので注意が必要です。また、蘇生処置に反応が悪い場合に、従来の生理食塩水などの循環血液増量剤10mL/kgを5分から10分かけて静脈内投与するという処置は、失血が疑われる場合のみに限定しての適応となり、失血がはっきりしない場合には、他の原因が考えられない場合のみに最後の手段として使用する事と限定されました。 以上、アルゴリズム図に沿って今回の改訂による変更点を説明しました。

もう一度、改訂による変更点を箇条書きで示します。

1.出生直後のチェックポイントから「羊水混濁の有無」が削除されました。

2.ルーチンケアは母親のそばで行うこととなりました。

3.羊水混濁があり、児に活気がなくてもルーチンに気管挿管、気管吸引を行う必要はありません。

4.蘇生の初期処置を行なった後の臨床的評価は、呼吸、心拍数の二つで、肉眼的な皮膚色は評価項目から外され、代わりにパルスオキシメーターによるSpO 2が入りました。

5.蘇生の初期処置を必要とする児は、心拍数、チアノーゼの評価のためにパルスオキシメータの右手への装着が強く推奨されました。

6.呼吸、心拍数に問題はなくとも、努力呼吸あるいは中心性チアノーゼを認める場合はパルスオキシメータの右手への装着が推奨され、処置の第一選択としては空気による持続的気道陽圧(CPAP)管理となりました。CPAP管理ができない場合には、従来通りフリーフロー酸素投与を行いますが、酸素の過剰投与には十分気をつけねばなりません。

7.蘇生の初期処置後でも、呼吸、心拍数のどちらかに問題があれば、バック・マスク人工呼吸を行いますが、正期産児や正期産近くの児では最初の人工呼吸は空気で行う事が推奨されています。

8.人工呼吸と胸骨圧迫をしてもなお心拍数が60回/分未満である場合は、薬剤投与を考慮しますが、骨髄針使用による経骨髄投与が追加されました。また、気管内投与の場合のアドレナリン投与量が0.03~0.1mg/kgから0.05~0.1mg/kgと変更され、以前より若干投与量が多くなりました。

9.生理食塩水などの血漿増量剤の投与は失血のある場合にのみ適応となり、その他の場合には、他の原因検索を十分した後に失血が否定できない場合のみに考慮となりました。

10.出生直後のチェックポイントから「羊水混濁の有無」が削除されました。

最後に、今回の改訂に伴い新たに準備しなくてはならない機器(必須)、準備が望まれる機器(推奨)を示します。

1.パルスオキシメータ(経皮酸素飽和度モニター)とプロ―べ(必須)

2.圧縮空気の配管、あるいは、圧縮空気ボンベ(推奨)

3.酸素ブレンダ―(酸素濃度調節器)(推奨)