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日本周産期・新生児医学会
新生児蘇生法普及事業 事務局
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ガイドライン2020概要

日本蘇生協議会(JRC)より「JRCガイドライン第4章新生児の蘇生」が公表されました。2020年版NCPRアルゴリズム及び改定箇所が掲載されております。

※1/22までパブリックコメントを求めており、本掲載内容は最終版ではございませんのでご注意ください。

1.新生児蘇生法アルゴリズム2020
     改訂コンセプト

 新生児蘇生で最も重要なのは人工呼吸・胸骨圧迫へ進む救命の流れです。遅延なき有効な人工呼吸が実践できる個人の技術に加え、チームパフォーマンスが重要であるため、ガイドライン2020ではブリーフィングの重要性を明示しました。

 小児科医が立ち会える体制では有効な人工呼吸・胸骨圧迫で改善しない場合はアドレナリン投与を可能な限り早期に投与します。

 安定化の流れでは努力呼吸またはチアノーゼがある場合、直ちにCPAPまたはフリーフロー酸素投与を行うのではなく、SpO2モニタを装着したうえで病態に合わせた治療を選択しその後の評価を行います。

2. 2020年版アルゴリズムの変更点

   アルゴリズム(図1)を見てください。2015年から大きな変更はありません。改訂点のポイントを項目ごとに解説していきます。


図1

ⅰ.新生児蘇生法の本質である救命の流れの強調

 2015年までのアルゴリズムでは初期処置後の評価後に左に分岐する救命の流れと右に分岐する安定化の流れを対照的に配置していました。しかし、新生児蘇生の本流は自発呼吸がないか心拍が100/分未満の際、遅滞なく有効な人工呼吸を行う救命の流れであるため、救命の流れを出生から評価と介入を直線的に配置し、安定化の流れを右に分岐する形に配置しました。

ⅱ.出生前のステップとしてブリーフィングの表記の追加

 今回の改訂でブリーフィングと蘇生後のデブリーフィングの効果についてスコーピングレビューが行われ、ブリーフィングまたはデブリーフィングが児およびスタッフの短期的な臨床成績およびパフォーマンスのアウトカムを改善する可能性があると結論付けられました。また、シミュレーション教育や臨床現場における学習として、ブリーフィングとデブリーフィングの利用が推奨された従来の血液などの体液を介しての感染予防や蘇生物品の確認に加え、Severe acute respiratory syndrome-corona virus 2(COVID-19)感染流行下で飛沫感染防御やそのための装備の準備を含めたブリーフィングの重要性からもアルゴリズムの最初に出生と共に加えました。

ⅲ.人工呼吸に引き続く胸骨圧迫時の『+酸素』の表記の追加

 有効な人工呼吸を30秒間行った後の評価で心拍が60/分未満であれば人工呼吸に加えて胸骨圧迫を開始すると共に酸素投与が必要となります。これはガイドライン2015から変更はありませんが、講習会でのシナリオ実習の際に、胸骨圧迫時の酸素投与を忘れることが多いため今回の改訂でアルゴリズムに記載しました。

ⅳ.アドレナリン投与の優先順位から独立した表記へ変更

 今回の改訂でアドレナリン投与に関してシステマティックレビューが行われました。アドレナリン投与経路は、臍帯静脈内投与が第一選択として推奨され、投与量、投与間隔はガイドライン2015から変更はありません(静脈内投与では速やかに0.01~0.03mg/kgを投与し、気管内投与では0.05~0.1mg/kgを投与します。投与後約30秒ごとに心拍をチェックし、心拍が60/分未満が続く場合は3~5分ごとに投与します)。初回投与が気管内投与であった場合、気管内投与によってその後の静脈ルート確立を遅らせるべきではないとされ、気管内投与後も心拍が60/分未満であれば、気管内投与との間隔にかかわらず静脈内投与が可能になれば静脈内投与を行います。
 一方、容量負荷に関してはエビデンスアップデートが行われ、蘇生に反応しない、すなわち人工呼吸、胸骨圧迫、アドレナリン投与にもかかわらず状態改善のない出血のある新生児に対しては、生理食塩水または赤血球濃厚液による早期の容量補充が適応となりますが、出血を伴わない新生児に対して循環血液増量液の補充をルーチンに行うことを指示するエビデンスはないとされました。このことから薬物投与において循環血液増量液の投与はアドレナリン投与に先行して行うものではなく、今回の改訂ではアルゴリズムにおいてアドレナリンを独立させることとしました。

ⅴ.努力呼吸またはチアノーゼの『共にあり』から『どちらかあり』で安定化の流れに進むように変更

 2015年のアルゴリズムでは努力呼吸とチアノーゼの確認を行い『共にあり』でSpO2モニタを装着してCPAPまたは酸素投与とし、『共にあり』ではない場合は蘇生後のケアに進み、努力呼吸のみが続く場合は原因検索とCPAPを検討し、チアノーゼのみが続く場合はチアノーゼ性心疾患を鑑別するとしていました。しかし、臨床上、チアノーゼまたは努力呼吸がある場合はSpO2モニタを装着して鑑別診断を行い、必要時には治療を行うことが現実的です。またCoSTR2020でも努力呼吸またはチアノーゼで次の介入へ進むため、今回の改訂では努力呼吸とチアノーゼの確認をし、『どちらかあり』と認めた場合は次の介入へ進むこととしました。

ⅵ.安定化の流れでは最初の介入は直ちに行うのではなく、『SpO2モニタを装着し必要時CPAPまたは酸素投与』に変更

 安定化の流れでは自発呼吸と心拍が100/分以上であることが大前提で、この状態では脳及び心臓を含む各臓器は直ちに低酸素・虚血性障害をきたすものではありません。そのためvで示した努力呼吸とチアノーゼのどちらかを認めた場合は『SpO2モニタを装着し必要時CPAPまたは酸素投与』に進むよう変更しました。蘇生の初期処置後、自発呼吸が出現した児や充分啼泣している児でもチアノーゼの持続または酸素化不良の場合もありますので、努力呼吸は認めずチアノーゼのみがある児に対して直ちに酸素投与を行う必要はありません。

ⅶ.チアノーゼを『チアノーゼ(酸素化不良)』の表記へ変更

 チアノーゼは毛細血管中の還元型ヘモグロビン(Hb)が5g/dL以上となると出現する病態です。一方、酸素飽和度は動脈血中の全赤血球に対してHbの何%に酸素が結合しているかを表したものです。すなわちチアノーゼは多血症では認識されやすく、貧血では認識されにくいことになります。Hb濃度によりチアノーゼが表れる動脈血酸素飽和度は変化するので、チアノーゼと酸素化不良は同義ではありません。組織への酸素運搬を考えるうえで、Hbの酸素化が必要な貧血時にチアノーゼが認識されず酸素投与が遅れる一因になります。従ってSpO2モニタ装着前または表示されていない状況下では皮膚色すなわちチアノーゼの有無で酸素化不良を判断しますが、SpO2モニタが使用できる施設では動脈血酸素飽和度(SpO2値)で酸素化不良を判断します。酸素化不良とはNCPRアルゴリズムに記載された目標SpO2値を下まわる場合であり、ガイドライン2015から変更はありません。また、SpO2が上昇傾向にある場合は必ずしも介入を必要としない点も変更はありません

ⅷ.CPAPまたはフリーフロー酸素投与を開始した後、新たな評価基準として『改善傾向あり』を追加

 2015年のアルゴリズムでは努力呼吸とチアノーゼを共に認めた場合は、SpO2モニタ装着後直ちにCPAPまたは酸素投与を開始し、開始後30秒後の評価で継続し努力呼吸とチアノーゼを共に認めた場合は人工呼吸を開始するステップに進んでいました。しかし臨床現場では改善傾向がある場合は人工呼吸を開始するのではなく、CPAPまたは酸素投与を継続することが現実的です。評価として『改善傾向あり』を加え、この場合はさらに同一の治療を継続して再度、努力呼吸とチアノーゼ(酸素化不良)の確認を行うとし、改善傾向が認められない場合には『原因検索を行いながら対応を検討』に進むフローに変更しました。

ⅸ.介入後の評価で努力呼吸とチアノーゼ(酸素化不良)に『改善傾向なし』の場合は原因検索を行いながら対応を検討に変更

 安定化の流れでは努力呼吸またはチアノーゼ(酸素化不良)のどちらか一方を認める場合CPAPまたは酸素投与を検討することとしました。CPAPまたは酸素投与で改善しない場合は2015年のアルゴリズムでは人工呼吸を開始することとしていましたが、今回は努力呼吸またはチアノーゼ(酸素化不良)の『どちらかあり』へ変更したため、チアノーゼ性心疾患を早期に鑑別する必要があることから、一律に人工呼吸にステップを進めるのではなく、原因検索をしながら『努力呼吸と酸素化不良が共に続く場合は人工呼吸を検討』し、『酸素化不良のみ続く場合はチアノーゼ性心疾患を鑑別』に変更しました。

ⅹ.蘇生後のケアは『注意深く呼吸観察を継続』のみへ変更

 ⅸで示した通り、安定化の流れでは努力呼吸またはチアノーゼ(酸素化不良)のいずれかが認められた場合、最終的に改善傾向がなければ鑑別診断に進み、努力呼吸と酸素化不良が共に続く場合は人工呼吸を検討、酸素化不良のみが続く場合は先天性心疾患を鑑別するフローに変更しました。一方、蘇生後のケアに進む場合は、努力呼吸およびチアノーゼ(酸素化不良)を共に認めない場合になります。ただし、出生後早期は胎内生活から胎外生活への移行期であるため、2015年のアルゴリズムにある『注意深く呼吸観察を継続』は残すこととしました。

ⅺ.注釈 (a)、(b)、の簡略化

 2015年のアルゴリズムと内容に変更はありませんが、以下の通り簡略化しました。
(a) 心拍またはSpO2値の改善がなければ酸素を追加・増量する。
(b) 適切に換気できていない場合は、すぐに胸骨圧迫に進まず、まずは有効な換気の確保に努める。
(c) 人工呼吸と胸骨圧迫:1分間では人工呼吸30回と胸骨圧迫90回となる。

3. 早産児の蘇生

早産児の蘇生に関してはNCPR2015から変更はありません。

Ⅰ.臍帯結紮と臍帯ミルキング

 CoSTR2015では直ちに蘇生を必要としない早産児に対して30秒以上の臍帯遅延結紮を提案しました。ただし在胎28週以下の早産児で蘇生処置を必要とする場合に臍帯遅延結紮は実施困難であるため、蘇生の妨げにならない臍帯ミルキングで代用するのが合理的であるとしました。この課題に関してはシステマティックレビューが進行中ですが、CoSTR2020に間に合わなかったためNCPR2015の考え方を継続することといたします。日本の医療レベルにおいて、全ての早産児に胎盤血輸血を行う必要があるかどうかのエビデンスはありませんが、日本の多施設共同で行われた在胎28週以下の早産児を対象とした研究では、児から臍帯を30cmの位置で結紮切離してラジアントウォーマー下で1回ミルキングし、結紮切離する単回ミルキング法が推奨されました(臍帯ミルキング手技の詳細はhttps://nrn.shiga-med.ac.jp/milking/で動画を参照することができます)。

 国際的には臍帯ミルキングに関しては臍帯結紮前の複数回ミルキングが主流でKatheria A らによると頭蓋内出血の頻度が上昇するといった報告もあるのでその実施に関しては注意を要します。この論文には在胎週数別の臍帯ミルキングと臍帯早期結紮の頭蓋内出血の頻度の比較が記載されていませんが、2019年のHot Topic in Neonatologuでは在胎23週の児での頭蓋内出血の頻度が有意に高く、在胎24週以上では有意差は見られないことが発表されました。

Ⅱ.保温

 保温に関してはCoSTR2020ではエビデンスアップデートで評価されたため推奨に変更はなく、NCPR2020でもNCPR 2015の推奨を継続します。すなわち、在胎28週以上32週未満の早産児ではラジアントウォーマー下で処置をする場合、23~25℃の環境温度・加温したブランケット・プラスチックラッピング・温熱マットレスなどの組み合わせにより、NICU入院時の低体温(<36℃)を回避します。また起こりうるリスクとして高体温(>38℃)を回避することも提案されました。ただし、在胎28週未満の児の蘇生においては分娩環境の室温を26℃以上とし、ラジアントウォーマー下で処置をしてプラスチックラップで全身を包むこととします。またラッピングの皮膚乾燥を実施してから行うかは科学的に証明されていないため、個々の臨床現場で考慮してよいという点も変更ありません。

Ⅲ.努力呼吸のある児に対する持続的気道陽圧(CPAP)療法

 同様にCPAPおよび持続的肺拡張もCoSTR2020ではエビデンスアップデートで評価されたため推奨に変更はなく、NCPR2015と同様に分娩室で努力呼吸を呈する早産児に対して、挿管、人工呼吸に先立ち5cmH2OのCPAPを行うことを推奨します。一方、自発呼吸がない早産児に対して、出生時の肺拡張を目的とした、5秒以上の初期持続的肺拡張をルーチンに行う必要はありません。

Ⅳ.人工呼吸戦略

 また人工呼吸戦略についてもNCPR2015と同様に、分娩室で蘇生のため人工呼吸が必要な早産児には、初期吸気圧は20~25cmH2Oで開始して、胸郭の動き等で換気圧を調整します。PEEP使用および人工呼吸開始時の酸素濃度に関してCoSTR2020ではエビデンスアップデートで検討されたため、従来の5cmH2Oの終末呼気陽圧(PEEP)の使用と21~30%の低濃度酸素で人工呼吸を開始し、SpO2値を指標として酸素濃度を調整することに変更はありません。換気回数は40~60/分で、人工呼吸実施の際は過剰な胸壁の動きは避けるべきですが、心拍や胸郭の動きに迅速な改善がなければ、さらに高い圧をかける必要があります。

まとめ

 今回のCoSTR 2020は2015年以降22個のPICOについて検討した結果で作成されました。現在も臍帯結紮の時期を含め多くのPICOが検討され、そのPICOに対するCoSTRを作成中です。ILCORではCoSTR2015以降5年ごとの公表でなく各PICOの検討が終わり次第公表するContinuous Evidence Evaluation (連続的エビデンス評価)に変更されました。新生児領域では今回のCoSTR2020まで大きな変更につながる公表がなかったため、個別のCoSTRに関しては日本語訳および日本蘇生協議会の解釈は示しませんでした。今後ガイドラインの変更が考慮されるCoSTRが公表された場合は日本語訳および日本蘇生協議会の解釈を示し、パブリックコメントを求めることになります。その結果によっては日本版蘇生ガイドライン2025を待たずに即座にガイドラインに反映させる可能性もありますので、その際は随時お知らせいたします。また、今回のガイドライン改訂に関しても皆様方のご意見を伺い、2025年の改訂に備えていきたいと思います。生まれてくるお子様とご家族のために本事業に今後ともご協力の程よろしくお願いいたします。